平成30年7月に相続に関する法律(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律)の改正が成立し、一部を除いて令和元年7月1日に施行されました。これは昭和55年の改正以来実に約40年ぶりの大改正です。
これは平均寿命が延びたことや、核家族化、1人世帯の増加、内縁関係の事実婚の増加など社会環境の変化に伴って、この変化に対応しようと、相続に関するルールを大きく変えてきたのです。

具体的には

①配偶者居住権の創設
②婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置
③自筆証書遺言の方式緩和
④法務局における自筆証書遺言の補完制度の創設(遺言書保管法)
⑤預貯金の払戻し制度の創設
⑥遺留分制度の見直し
⑦特別の寄与の制度の創設

といった改正や新しい制度の創設がなされています。

今まさに相続が発生しそうな家庭や、将来の為に相続の仕組みを知っておきたい方まで、すべての人が知っておくべき内容だと思いますので、ぜひご覧いただければと思います。
なおこの記事に関しては法務省の「相続に関するルールが大きく変わります」及び東京弁護士会の「すっきり早わかり相続法改正」を参考にさせていただいております。

①配偶者居住権の新設

日本人は昔と比べ大きく平均寿命が延びました。具体的には約50年前である1970年は男性が69.3歳。女性が74.6歳でした。それが最新のデータだと2017年時点で男性が81.0歳。女性が87.2歳まであがりさらに伸び続けています。それゆえ夫婦の一方が死亡した時、残された配偶者もかなりの高齢であることが多く、残された配偶者の生活を守っていく必要性が出たのです。

生活を守るとはどういうことでしょうか。日本では亡くなった方の財産のうち、不動産が多くの割合を占めているケースが多いです。
例えばこのような場合です。

夫(被相続人)

土地・建物 1,000万円     現金 1,000万円

妻(相続人)          子(相続人)

         

土地・建物1,000万円      現金1,000万円

 

土地と建物で財産の50%を占めています。これを妻と子ども一人に法定相続分どうりに相続させると妻が1,000万円の土地建物子どもが現金1,000万円という分け方にならざるを得なくなり、妻に現金が渡らないことになってしまいます
現金がなければ自宅に住むことができたとしても生活には困ってしまいます
。(もちろん子どもが相続放棄したり、母親の面倒をみてあげるのが倫理的には正しいと思いますが、あくまで法律上の分け方という事です)

これが今までの相続のケース。これが令和2年4月1日以降は(この配偶者居住権のみまだ施行されていません)
Ⅰ 配偶者が相続開始時に当該建物に居住していた
Ⅱ 当該建物が配偶者以外の者と共有していない
Ⅲ 当事者の意思又は裁判所の審判により配偶者居住権を取得する事になった

この場合、簡単に説明すると従来の所有権が所有権と使用権の2つに分かれ、使用権として配偶者居住権という権利が発生します。この権利があると所有権はなくともその建物に住み続けることができるようになります。(賃貸に似てますね、もちろん費用は発生しませんが)

さきほどのケースにあてはめますと、
夫の土地建物1,000万円現金1,000万円。を妻と子どもに分割する際に、このような分割にできます。
妻   配偶者居住権500万円 現金500万円
子ども 土地建物負担付所有権500万円 現金500万円

これによって残された配偶者は住む場所を確保しつつ、遺産のうち現金についてもある程度の割合を確保する事ができるようになりました。
また、配偶者居住権の手前に配偶者短期居住権というのもあります。これは配偶者居住権よりも要件が簡易になっており、被相続人が亡くなった時に同居していた配偶者が居れば成立し、一定期間その建物を使用する事ができる権利です。

②婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置

この規定は以前から民法の規定にあった、相続発生時より3年前までに行われた贈与は遺産分割の対象となる。という規定を排除するものです。
被相続人から妻に不動産を贈与した後死亡したとしても、贈与から死亡まで3年が経過していなければ贈与した不動産は遺産相続の対象となり、贈与をした意味がありませんでした。
新しい法律では婚姻期間が20年あり、居住用の不動産の贈与であれば(投資用マンションなどではダメ)贈与と死亡との期間の差がわずかであったとしても、贈与された建物は遺産分割の対象にならず、建物にそのまま住むこともできますし、現金の取り分も多くなります。
この改正も配偶者の生活を守るための改正といえますね。


③自筆証書遺言の方式緩和

遺言書については、自筆証書遺言。秘密証書遺言。公正証書による遺言の3種類があります(この違いなども近いうちに記事にしたいと思います)そしてこのうちの自筆証書遺言については、本人が自署するだけでよいという1番簡単な遺言書になっており、形式さえ守れば今すぐにでも作成する事ができる遺言書です。
今まではこの自筆証書遺言を作成する際には全てを被相続人が自署する必要があり、パソコンやワープロでの作成はおろか、財産目録に登記簿や、預金通帳のコピーなどを使用する事もできませんでした。
これが改正後は基本的に自署するのですが、財産目録に関してはパソコンで作成したものを使用できたりコピーで代用できるようになりました。また自署でなく作成した財産目録には被相続人本人が署名捺印はする必要がある為、偽造の防止などもできると考えられています。

国からの「遺言書を積極的に書いてください。」というメッセージだと私は受け取っています。

④法務局における自筆証書遺言の補完制度の創設(遺言書保管法)

この制度は自筆証書遺言の欠点を補完する新制度です。自筆証書遺言は被相続人が1人で気軽に作成できる反面、本当に相続が発生すると【この遺言書は本当に本人が書いたのものなのか】【相続人の1人によって故意に遺言書が破棄されてしまう恐れ】【検認(間違いなく本人が書いたものという確認作業。家庭裁判所が行う)に時間がかかる】などの欠点がありました。
新制度では、被相続人自らが法務局に遺言書の保管を申請できます。
申請された遺言書は申請時に本人確認をするので検認が必要なくなりますし、本人が確かに書いたという間違いない証明ができます。
また法務局に安全に保管されることにより、破棄されたり、隠されたりといった心配もなくなり被相続人の意思が確実に実行される事が期待されます。

どうですか?遺言書の保管は国がしっかりやりますので、自筆証書遺言をもっと書きましょう。と言っているように思えませんか?


⑤預貯金の払戻し制度の創設

今までは被相続人が亡くなると銀行口座が凍結され預貯金の引き出しは遺産分割が終わるまでできませんでした。
ただ人が亡くなると何かとお金がかかります。そこで今回改正で預貯金の引き出しにつき、一定割合までは遺産分割前でも可能となる改正がなされました。

具体的には
(相続開始時の預貯金債権の額)×1/3×(払戻しをする相続人の法定相続分)
となります。相続人が預貯金に関して有している法定相続分の1/3は引き出す事が可能としたのです。


⑥遺留分制度の見直し

相続においては相続人が配偶者、子供、親の場合。遺留分という権利が認められています。これは遺言などによって相続で受ける財産額が大きく減少したりなくなってしまった場合に、この額までは保証しましょうという金額です。
以前はこの遺留分を行使する場合には金銭に限られず総財産について物権的に請求するものとされていました。
この場合不動産や会社の株式などが多くの場合共有になってしまい、後々の紛争の火種になる事が多かったのです。

これを新法では物権的請求権を否定して、金銭債権にすると完全に改めました。
これによって不動産が共有になる事もなくなり権利関係が安定します。また片方の相続人が金銭の支払いが困難である場合に裁判所に対し支払い期限の猶予を求める事もできるようになりました。

⑦特別の寄与の制度の創設

特別の寄与。難しい言葉ですね。寄与とは送り与える事…という意味で相続においては、被相続人の世話、療養看護、他何かしらの手助けをして被相続人の財産の減少を防いだり、財産が増加した場合、寄与があったとされます。
よくあるケースなんですが、例えば相続人である子供の奥さんが年老いたお義父さんの世話、介護をずっとしていた。その後お義父さんより先に旦那さんである子供が亡くなり、その後お父さんが亡くなった。
奥さんは義父の相続人ではありませんし、夫婦に子供がいなければ子供が相続人になる事もできません。
この場合相続人でない奥さんは、ずっと介護を一生懸命にやっていたのにもかかわらず、誰にも一銭も請求する事ができないのです。

この点新法では、被相続人の親族であり、療養介護などや労務の提供によって被相続人の財産の減少を防いだり増加させた場合は特別の寄与があったとして、他の相続人に対し、金銭の支払いを求める事ができるようになりました。
介護などの貢献に報いる事ができ、実質的公平が図られる事になったのです。

まとめ

法律が改正されるには理由があります。
今回民法が大改正が起こり、相続についても大きく変わったところがいくつもあります。ただ私が感じるところとして、それらはすべて被相続人が自分の意思を残しやすく。また相続人間で争いが無くなり、残された遺族の生活が相続によって困窮しないように考えられているな。と感じました。

これからはますます高齢社会は進行していきます。そしてその為亡くなる方の数も増えていくでしょう。そんな時に遺言書がなければ必要のないトラブルが起きてしまう事にもなりかねませんし、家族にお葬式はどうしたいか。お墓はどうしたいか。などと自分の最後の時をどう行ってほしいか。などを話しておかないとイザというときに残された家族が困ってしまうと思います。

改正の背景から感じる国のメッセージを読み取って、トラブルのない遺言。そして相続の準備をしておきましょう。